2010年4月・院内集会

携帯電話基地局の設置後マンション住民に出現した症状
新城哲治さん(医学博士[分子生物学]、内科医)



 新城哲治と申します。私のプロフィールを見ていただければ分かると思いますが、研究ばっかりしていたわけではなくて、仕事もちゃんとしていまして(会場笑い)、白血病と悪性リンパ腫の方も病棟で診ていたり、外来で治療したりしていました。
 アポトーシスという研究をしていたんですが、アポトーシスというのは、人間はお母さんのお腹の中にいる時、手のひらに水かきができますよね、この水かきがちゃんと衰退していくメカニズムを研究していて、実はそれが、がん遺伝子とも関連するんです。最後の論文は、がん遺伝子のメカニズムを解析した論文です。今は民間の病院に勤めています。
 家内が話したような経緯があって、携帯電話基地局設置後マンション住民に出現した症状を、絶対に世に出さなくてはいけないと思い調べました。因果関係があるかどうかという話は別として、事実として、このようなことが携帯電話基地局設置後に起こって、撤去したらこういう事実が起こったということを皆さん、ぜひ知ってください。

人体と電磁波

 まず、人体と電磁波について。簡単な事ですけど結構、いろいろ面白いことがあります。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、温痛覚、運動は、脊髄から出る神経の電流によって全部制御されています。
 神経はクモの巣みたいな形の細胞で、この細胞が脳にもあるし脊髄にもずうっと繋がっているわけです。

 神経細胞を細かく見ると、長い軸索があり、この中に本当に電気が通っています。その先から神経伝達物質が出ています。
 生物の細胞には電気が流れている。特に神経細胞は電気の信号を伝えることによってその機能を果たしている。多くの細胞に電位が存在しており、細胞内のイオンの出し入れによってその電位が変化しています。

 神経細胞の軸索の中をプラスの電流が流れている。神経細胞の表面でイオンの出し入れにより脱分極が起こって電位が変化する。その変化が軸索を介して伝わる。電気が流れることを脱分極と言います。

 これはその電位です。マイナス60mVくらいですかね。ピュッと上がって元に戻って、次の電気が来るのに備えます。オシロスコープという機械で記録すると、神経細胞に電流が流れていることがわかります。
 心臓の拍動も電流で起こっている。それを記録するのが心電図です。その中の特別なシステムを「刺激伝達系」と言って、心臓の内部で電流を伝える細胞の回路がある。心臓の洞房結節という部分にいわば発電所があって、ここから電気が流れて心臓が動くわけです。これを応用したのが電気を心臓に流すペースメーカーですね。洞房結節から電気を出してプルキンエ繊維というすごく長い神経細胞を伝わって、心臓が動いています。心臓も電気の流れで制御されています。
 人の体には「直流」の電流が流れているわけですね。地磁気という、地球の固定された磁場の中で人間は生活していて、人の細胞の電流は影響を受けないわけです。この状態で人間は普通に生活しているのです。
 しかし、携帯電話基地局からの電磁波は自然界には存在しない強力なもので、さらに「交流」でプラスとマイナスが常に変化しています。こうなると人間の細胞は影響を受けるわけです。

 これは私が調べた範囲ですが、電磁波による影響が報告されている生体内物質です。いっぱいありますけど、とりあえず、がん遺伝子ですね。がん遺伝子は、実はすでに人間の細胞の中にすでに組み込まれています。がん誘発因子の曝露や遺伝子の突然変異などでがんの発生に至る。また、物質を酸化する力が強い分子であるフリーラジカルによって酸化された分子は様々な障害を生体に及ぼす。また、脳から分泌され睡眠等の日内リズムを調整しているホルモンであるメラトニンです。
 電磁波による発がんの機序として、がん遺伝子が活性化されてがんになったり、増加したフリーラジカルがDNAを障害させてがんになったり、メラトニンの低下がエストロゲンの増加を起こして乳がんや前立腺がんになるという論文があります。

マンションへの携帯電話基地局設置の経緯

 携帯基地局アンテナ設置の経緯をお話します。平成12年に800MHzのみ建って、20年3月に2GHzが追加されました。私の家内が話した通り住民の要請があって、最初2GHzだけ停波しました。800MHzはそのまま動いていましたが、6月に800MHzが止まって、平成21年8月にアンテナを撤去することができました。
 我々が住んでいたマンションは10階建てで築20年くらいです。我々がいたのはこの10階の部屋です。一番上の部屋で見晴らしは最高でした。

 屋上のアンテナは3本でした。アンテナは1基につきだいたい3本ですよね。1つのセクターが120度で3つあれば360度カバーすることができます。

 屋上のアンテナの配置です。アンテナ3本のうち2本は屋根に直接設置されていました。アンテナと直下の居間の距離は5mもありませんでした。残りの1本はマンション外壁に設置されていました。

 これがアンテナです。このようなアンテナが3本、屋上に設置されていました。

 もっとアンテナに寄ってみると、四角い柱が前からあった800MHzのアンテナで、丸い円柱が追加された2GHzのアンテナです。

マンション住民の症状

 住民の症状は、最初、アンケートの○(マル)×(バツ)とかで調べましたが、いろんな方が頭痛、めまい、耳鳴りとか、いろんな症状を言ってきて、単一の言葉では現せないというか、これはもうその人の言葉を素直に書き留めようと思いました。大変なことです。普通の○×だったら、○の数字を集計すれば良いのですけれど、そうではなくて、症状を言っている方は素人なものだから、いろんな症状を言ってくるんですよ。「耳がキーン」とか「ツンツンする」とかですね。それを我々の医学用語で制限してしまうと、そこでバイアスがかかってしまうので、言われた事を全部書き留めました。
 800MHzだけだった時、マンション住民の皆さんは、症状があっても更年期障害だろうだとか、あまり自覚を持っていなかったわけですね。これは聞き取りをしてわかったんですが、「2GHz増設前から症状があったよ」と言うので、「じゃあ、その時どうだったの?」と聞いて、800MHzだけ稼働していた時の症状も調査しました。
 「じゃあ、2GHz増設後にどんな症状がありましたか?」と聞いて、その症状も記録しました。
 平成21年8月に撤去しまして、3か月もたてばある程度症状が改善しているだろうということで、3か月後にもう一度、聞き取り調査を行いました。
 2GHzと800MHzが両方動いていた時に我々が「基地局の影響ではないか」と思って調べたのですが、800MHz稼動時からすでに多くの症状が出ておりました。2GHz稼働後には、症状はさらに増えて、ひどくなっていました。ですからマンション住民の殆どの方々が、これらの症状は携帯電話基地局の電磁波が影響しているのではないかと思いました。
 このマンションの総世帯は47世帯で、最上階は2世帯だけです。面白いのは10階、9階、8階の住民に症状があって、7階はあまりなくて、6階には症状がありました。後で電磁波の測定結果をみると、6階はちょっと電磁波が高く出ていました。電磁波が隣の建物に反射して集中したため6階は強くなってのではないかと思っています。電磁波は距離の2乗に反比例して減衰するそうですが、環境によってはそうとは限らないというデータを、本堂毅助教(東北大学大学院理学研究科物理学専攻)も出されています。

 表1は代表的な症状です。上から9つの症状は、撤去後にゼロになった症状です。これらのうち、800MHzのみの時にゼロだった症状は、倦怠感、イライラ感、精神錯乱の3つです。特に、倦怠感は2GHz増設後に27例ありましたが、撤去したらゼロになりました。この3つの症状は、2GHzの電磁波の影響である可能性があります。
 撤去後にも残った症状は、めまい・立ちくらみ、関節痛、視力障害、頭痛、不眠・中途覚醒、耳鳴り。これらの症状は、800MHzの稼働時からもう出ていました。800MHzは10年以上暴露されていますから、基地局が撤去されてもすぐには良くならずに、症状が抜けるのに時間がかかるのかなと思います。
 最終的には170あった症例が22に減りました。8分の1以下になっています。明らかに減っていました。

 以上をまとめると、このようになります。
 さらに住民の症状以外にも、メダカや金魚が死んだという報告もありました。
 マンション住民の方が10年前から絶滅危惧種のメダカを飼っていて、増やしたメダカを川に放流するボランティアをやっていたのですが、これまで10年間ずっとうまくいっていました。しかし、今年に限って「基地局が稼働した後に生まれた46匹中36匹が死んでしまった」そうです。しかも、その36匹全部が、背骨が曲がっていたということです。脊髄に腫瘍(がん)ができて背骨が曲がったのかもしれません。
 他の住民の方からも「金魚の背骨にこぶができて死んでしまった」との報告がありました。

 そのほかにも、表2のような、生活環境でみられた異常がありました。

 我々の基地局は幸いにも撤去できたわけですが、撤去できた要因は、表4の通りです。携帯電話会社の担当者は、すごく良い方で、口論になることはありませんでした。淡々と話して「手続きを進めます」「KDDIの本社にも交渉してみます」と言って、速やかに決まりました。更に、マンション管理組合の理事長も電磁波による健康被害に関して理解があり、理事会での決定が速やかでした。後になってわかったんですが、理事長さんも電磁波過敏症だったそうです。

他の基地局周辺住民にも症状が出現

 他の基地局周辺住民にも症状が出現していました。

 この図のように周辺住民に症状が出現している沖縄県内の基地局は、私と家内が相談を受けているだけで12件あります。依頼を受けて講演をしたり、アドバイスをしたりしています。

 予防原則ですね。あなたはどちらを選びますか?「安全性が確認されるまでは危険である」のか、「危険性が確認されるまでは安全である」のか。どっちを選ぶのかということです。

 まとめです。総務省は携帯電話基地局からの電磁波による健康被害は存在しないとしている。しかし、携帯電話基地局の稼働後にマンション住民に多数の健康被害が発生した。基地局の撤去によりほとんど症状が消失または改善している。子どもが一番影響を受けやすいと私は思っています。私たちは未来の子どもたちのために何をしたらいいのか、ということを考えたいと思っています。
 以上です。ありがとうございました。




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